彦根犬猫病院 Hikone Animal Hospital

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2025年2月15日

尿検査 タンパク尿と慢性腎臓病

こんにちは。

獣医師の佐々木です。

犬やハムスターも飼っていましたが、今はやんちゃ盛りの猫1匹を飼っています。

 

そんな他人ごとではない猫の死因のうち、がんと並んで多いのが慢性腎臓病です。

どこの国でも死因の1~3位に入るくらい猫では突出して多い病気で7歳を超えた猫の半数以上が慢性腎臓病とも言われています。

そういう背景もあって診察で遭遇する機会も非常に多く、自身も獣医腎泌尿器学会と獣医がん学会に所属して最新の情報を収集するようにしています。

2月16日には獣医内科学アカデミー内で併催される獣医腎泌尿器学会に認定医の更新要件単位の取得とその他の様々な内科の勉強のためにも参加してくる予定ですので、病院に情報を持ち帰って患者様に還元できればと思っています。

 

今回は腎泌尿器分野に関係した話ということでちょっとややこしいですが、尿検査のうちタンパク尿について焦点を合わせて書いてみたいと思います。

尿を用いた検査にはいろいろな検査があります。
尿検査でしか得られないような情報もあり、うまく使えば情報の宝庫になります。

タンパク尿を調べる検査としては尿試験紙によるものとUPC(尿タンパク/クレアチニン比)というものを測定する検査がよく用いられますが、これらの検査でタンパク尿がでているからといって、腎臓の病気だとは限りません。

薬剤の影響だったり、腫瘍や他の疾患があったり、熱があったり、激しい運動後であったりするかもしれません。

 

ほかの要素を除外して、やはり腎臓の病気でタンパクが尿に漏れているようだとなればその原因を調べていくことになります。

タンパク尿が問題になる疾患で多いものというと上記の蛋白漏出性腎症や慢性腎臓病があげられます。

状況によってはそもそも診断が難しい病気も含まれますが、尿タンパクの測定とともに血液検査などのその他の検査を組み合わせることでどのような病気なのかをある程度絞り込むことができます。

 

また、さまざまな原因はありますが、慢性腎臓病ではタンパク尿が出ている場合、タンパク尿自体が腎臓の尿細管細胞や間質を障害し、病態を悪化させるリスク因子とされていて、予後に大きくかかわってきます。

慢性腎臓病の管理においてタンパク尿は無視できないもので、IRIS(国際獣医腎臓病研究グループ)は尿蛋白の評価についてUPCを用いて基準を設けています。

実際に病院でタンパク尿をみるときには尿試験紙かUPCの測定になると思います。

尿試験紙での評価は簡便なのですが、正確な評価をする上ではUPCの測定は欠かせません。

特に猫では尿試験紙のみの検査だと尿タンパクの見逃しが起こりやすいため、注意が必要です。

 

猫では特に尿試験紙ではタンパク尿ではないという結果でもUPCが上昇していたりします。

尿の濃さなどと組み合わせて、なんとか尿試験紙で尿タンパクを調べられないかと研究された方もいるようですがうまくいっていません。

タンパク尿があるかどうか調べたいときにはUPCを測定しないとなんともいえないようです。

 

犬では尿試験紙と尿比重をみて、ある程度判断できるのでそこでタンパク尿が出ているときにはUPCを測定するという流れでよさそうですが、その検査をするときにも注意点があります。

UPCの測定では尿を外注検査や院内の測定機器を用いて検査します。

その際に1日分の尿でUPCを測定すると誤差が出ることが知られています。(犬)

何回かに分けて、検査して平均をとると最も正確だと考えられますが、その分だけ費用もかさんでしまいます。

しかし、複数回とった尿を同量混ぜて、検査すると分けて検査をして平均をとった場合を大差ない結果がでるということも分かっています。

そのため、UPCの測定をする際には3日分の尿を持ってきていただけるとより正確になり、何度も検査する負担が減ることになります。

 

尿タンパクは冷蔵or冷凍保存で大きな変化はしないといわれていますが、変化してしまう場合も数%の症例であるといわれているのでできる限り新鮮な尿で検査することが望ましいです。

 

また、撥水性の猫砂を通過したあとの尿でも尿タンパクに影響はほとんどないとされていますのでシステムトイレなどで下にたまった尿も利用できます。

 

治療についてはタンパク尿の原因によっても変わってきます。

慢性腎臓病からのタンパク尿の場合ではアンジオテンシンⅡ受容体拮抗剤(ARB:テルミサルタンなど)やアンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI:エナラプリルなど)が使用されることが多いです。

最近ではタンパク尿のコントロールにはARBの方が有効だというデータも出てきているので今後はそちらが主流になっていくと思われます。

また、これらのお薬の服用時にはいくつか注意点があります。

代表的なものとしては脱水時には使用しないということや慢性腎臓病の末期には使用しないということ、一部の薬剤との併用は避けた方がよかったり、服用後に腎数値が上昇する場合があるので大きな上昇がないか血液検査で確認することが望ましかったりします。

 

タンパク尿は尿検査をしないと分からない、他の検査で代替できないもので、あなどってはいけない検査です。

もしなにかわからない点があればお気軽にご相談ください。

 

参考文献

イヌとネコの腎泌尿器病学

犬と猫の腎臓病診療ハンドブック

Efficacy of telmisartan for the treatment of persistent renal proteinuria in dogs: A double-masked, randomized clinical trial

Comparison of Single, Averaged, and Pooled Urine Protein:Creatinine Ratios in Proteinuric Dogs Undergoing Medical Treatment

Urinary Protein/Creatinine Ratio in Feline Medicine: Reasons to Perform It and Its Role in Clinical Practice—A Retrospective Study

Comparison of Efficacy of Long-term Oral Treatment with Telmisartan and Benazepril in Cats with Chronic Kidney Disease

https://www.javnu.jp/guideline/iris_2019/download/iris-pocket-guide-jp.pdf

 

 

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