慢性腎臓病の進行予測(リンとFGF-23について)
現代病とは、都市化、産業化など、過去にはなかった現代の生活習慣や環境などに起因する種々な病気を指して用いられる言葉である。(Wikipediaより引用)
こんにちは。獣医師の佐々木です。
ヒトで現代病というと糖尿病やメタボリックシンドローム、ストレス性の疾患などいろいろな病気が例に出されますが、慢性腎臓病は猫の現代病といってもいいかもしれません。(犬でもよくみますが。)
屋外で交通事故やウイルス感染症になって亡くなっていたのが、恵まれた環境で、お肉より水分は少ないけれど栄養バランスに優れたドライフードを食べ、運動不足になり、昔よりずっと長寿になったことで増えているのかもしれません。
慢性腎臓病というのは、その名前の通り慢性的に腎臓の機能が落ちていることをいい、病気そのものの名前ではありません。
なにかの腎臓の病気(原因不明であることが多い)があってその結果、慢性腎臓病という“状態”になってしまうことが猫では多いです。
一度機能が落ちた腎臓は基本的に元に戻ることはありません。
そのため腎臓の機能低下の進行を遅らせることが治療の目的になってきます。
慢性腎臓病ではいくつかの因子が進行や予後に関わっていることがわかっています。
(予後:病気や治療などについての、医学的な見通しのことです。一般的には、「予後がよい」は「これから病気がよくなる可能性が高い」、「予後が悪い」は「これから病気が悪くなる可能性が高い」といった意味で使われます。)
今回は慢性腎臓病の進行予後に関わる因子のうち、リンとFGF-23についてお話します。
慢性腎臓病においてリンが高くなる高リン血症は重要な合併症の一つです。
慢性腎臓病の進行に伴ってほとんどの症例で引き起こされてきます。
高リン血症の状態では慢性腎臓病の進行が早まることが分かっているので早期に発見し、治療介入することが重要です。
国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)の慢性腎臓病ガイドラインでは血液中のリン濃度について慢性腎臓病のステージに応じて目標値を定めています。
リンとFGF-23は密接な関係にあります。
FGF-23というのは骨から産生され、腎尿細管でのリン再吸収抑制とビタミンDの合成抑制による吸収抑制により血中リン濃度を低下させるホルモンです。
血中リン濃度が高くなりすぎないように分泌されていて、血中リン濃度が上がるより前にFGF-23は上昇してきます。
FGF-23やそのほかのホルモンの作用でも抑えきれなくなると血中リン濃度は上昇してきます。
人のデータにはなりますが、リンが上がってくるよりも前に正常値を逸脱して異常値になっていくものがあります。
リンは院内の検査機器で測定可能ですが、他のものは基本的に外注検査になります。
猫においてはFGF-23が高い個体では生存期間が短くなるというデータもあります。
犬でもデータ数は少ないですがFGF-23が高値の場合、生存期間が短くなるというデータが出ています。
また、猫の慢性腎臓病の進行予測や高リン血症の予測にも有効だという論文も出ています。
そのため、近年慢性腎臓病の治療方針を決める一つの情報としてFGF-23は効果的だと考えられています。
血液検査や画像診断、尿検査などで慢性腎臓病であると考えられたときに高リン血症がなくてもFGF-23を測定することで食事療法(リン制限)を始める判断が容易になりました。
また、すでに高リン血症の治療をしている場合でもFGF-23の数値を経過を追って確認することで治療の効果判定や追加で治療するべきかの判断する一助になります。
もし必要であればリン制限の行われた腎臓病用の療法食を開始したり、リン吸着剤を使用していきます。
Ca受容体作動薬(シナカルセト)を使用することもあります。
早すぎる腎臓病療法食の使用は特発性高カルシウム血症の発症・悪化や低リン血症、筋肉量の低下などを引き起こす可能性があり、それらによって逆に生存期間が短くなってしまうこともあり、推奨されていません。
FGF-23やリンの値だけでは慢性腎臓病進行は把握できません。
治療・経過の把握はFGF-23だけでなく、ほかの検査と組み合わせて総合的に判断する必要があり、定期的な状態の確認で適切な治療を選択できるようになります。
FGF-23は検査会社に血液を送付して行う外注検査です。当院で実施している春・秋の健康診断でも追加できる検査項目ですので気になる方はご相談ください。
その他参考文献
イヌとネコの腎泌尿器病学
Ettinger’s Text Book of Veterinary Internal Medicine 9th ed.




