犬の涙やけ(流涙症)
こんにちは。勤務医の佐々木です。
先日はお休み頂きまして、親族の結婚式に参加してきました。
小説でも映画でもそうですが、とても涙もろいのでひとりだけ泣きそうなのを我慢していたらとても疲れました。スーツを着なれていないのも関係あるかもしれませんが。
犬が涙もろい場合は涙やけの原因は涙量がおおいことでしょうが、犬ではなかなかない(わからない)と思います。
涙やけって特に白い犬だとポルフィリンが光に反応して赤黒くなるのでよく目立ちがちです。
涙やけ(流涙症)というのは病気の名前ではなく、状態を示しているだけで原因となるものが裏に隠れています。
原因としては大きく分けて3つあります。
- 涙の量の増加(分泌性流涙症)
- 涙が出ていく経路の異常(閉塞性流涙症)
- 涙をためる部分の異常(眼表面への涙液保持能力の低下)

伴侶動物の眼科診療p119図3より引用
1)涙の量の増加
眼の病気で痛みがあったり、ノギなどの異物が入り込んでいたり、毛が通常とは異なる場所に生えていたり、長いせいで眼の表面に当たっていて涙の量が増えることで流涙症が起こります。
これの場合はそれぞれの原因に対応する(病気を治したり、異物をとったり、毛を抜いたり)ことが必要になります。
原因となる眼の病気はぶどう膜炎、緑内障、潰瘍性角膜炎などさまざまです。
まぶたにできた腫瘍がずっと当たっていたりとかもあります。

まつ毛抜きと点眼麻酔
2)涙が出ていく経路の異常
涙は涙点、涙小管、涙嚢、鼻涙管を通って鼻の方へ流れていきます。
ここが詰まっていたり、細くなっていると外にあふれ出やすくなるので涙やけとして見た目に現れます。
涙が通っていくのかをチェックして、流れていかないようであれば鼻涙管の洗浄を行う場合もありますが生まれもってここの経路が通っていないまたは細いこともあります。
また、ネコだと若齢時に激しい猫カゼの眼の症状が出ていると、炎症により涙点が癒着してふさがっていることもあります。
眼につけた染色が数分で鼻から抜けていく様子。

伴侶動物の眼科診療p121 図7より引用
また、ウサギ、ネコ、ウマでは粘液のようなどろどろとした目ヤニや膿が目頭に出てくる涙嚢炎とよばれる炎症疾患がみられることもあります。(イヌでもありますが比較的少ないです。)
この病気でも鼻涙管の洗浄を行います。
鼻涙管洗浄は点眼麻酔のみで行える場合もありますが、鎮静・麻酔が必要になることも多いですのでその場合は麻酔前の検査を行っています。
3)涙をためる部分の異常
涙は眼の表面を常に薄く覆っていて、眼の表面(角膜)に栄養や酸素をわたしています。
涙をためる機能(涙液保持能力)が低下すると、乾燥刺激によって涙の量が増えていったり、眼の外に流れていくため涙やけとして観察されやすくなります。
まぶたの構造が通常とは異なるため、涙が貯められないということもあります。
また、涙丘(目頭のあたり)の毛が角膜に触れていると、刺激があったり、毛を伝って涙が流れ出て流涙症を引き起こしてしまうため、定期的に毛を抜いたりします。
これはシー・ズーやラサ・アプソ、チベタンなどの短頭種に多く見られる状態なので流涙症にお悩みの方は一度確認させてもらえるといいかもしれません。
他には涙の成分に異常がある場合です。
涙は三層に分かれていてそのうちの一つが油の層で、ここに異常が出てくると涙が眼の表面に保持されにくくなってしまいます。
マイボーム腺とよばれる油を分泌する部分のがうまく働かないことで涙の油の層の異常がでてきます。
ややこしいことにマイボーム腺の異常(マイボーム腺機能不全)の原因も複数あり、感染性のものだったり、アトピーだったり、脂漏症だったり、免疫介在性マイボーム腺炎などだったりしますので抗生剤やステロイドを試しに使ってみたり、表面に油のふきつけがなく脂質の酸化が少ないとされるフード(例:ビルジャック製品)や低脂肪食を与えてみたり、ぬるま湯程度でホットパック(市販品やタオルなどでまぶたを温めて、マイボーム腺に詰まった油をやわらかくして出しやすくする。温庵法ともいう。)をしたりします。
ヒトではマイボーム腺機能不全の診断基準は決まっていますが、犬では決まっていません。
ヒトでの診断基準を参考にしたり、治療への反応性、見た目の観察などから判断していくことになります。
いくつか段階はありますが、涙やけが気になる場合はかんたんに検査できる部分もあるのでそこだけでも原因を除外してみるといいかもしれません。




