がん学会参加報告&血管肉腫について
こんにちは。
獣医師の秋山牧子です。
先日、日本獣医がん学会が開催され、オンライン上で参加しました。
今回は、そこで話題にあがった「血管肉腫」について投稿します。
血管肉腫は、血管内皮細胞に由来するがんです。
血管の細胞が由来のため、心臓、脾臓、肝臓、腎臓、骨、膀胱、皮膚、皮下など、からだのあらゆるところにあらわれ、腫瘍自体が出血しやすく、転移しやすく、血液性状の異常も起こす厄介な性格をしています。
わんちゃんに多く、ねこちゃんでは稀です。
【脾臓の血管肉腫について】
一番多く遭遇するのは、脾臓の血管肉腫です。
病気を発見する場合は、下記の2つのケースが多いです。
①ぐったりする、元気がないなどの症状から検査をしてみつかる
②わんにゃんドック(画像検査を含めた健康診断)で偶然みつかる
進行するまで症状が出ないため、症状が出た時にはお腹の中で破裂して出血していることも、多くあります(ケース①の場合)。
ただし、①②のように脾臓にできものがみつかったとしても、必ずしもすべてが血管肉腫というわけではなく、結節性過形成や血腫といった「がん以外」のケースもあります。
脾臓にできた血管肉腫の治療の第一選択は手術で脾臓を摘出することですが、
脾臓摘出のみの生存期間中央値は1~3か月と、とても短いです。
手術後に化学療法を行った場合、生存期間中央値は3~8ヶ月(概ね5~6ヶ月)です。
腫瘤が破裂していない状態で治療した場合や、サイズが小さい場合は、より生存期間が長いとされています。
【心臓の血管肉腫について】
次に、血管肉腫が心臓にできた場合ですが、
多くは「心タンポナーデ」という状態で発見されます。
心臓は膜に包まれているのですが、心臓(多くは右心耳というところ)にできた血管肉腫から出血すると、心臓本体と心臓を包む膜の間に血液がたまります(からだとウエットスーツの間に水がどんどん入ってくるようなイメージです)。
心臓の膜はそこまでのびないので、中にいる心臓が、たまった血液におされます。
たまった血液に心臓がおされ、心臓が正常に動けなくなると、血が巡らなくなり、元気がなくなったり、失神や虚脱という形で症状が現れます。
心タンポナーデの70%が腫瘍が原因といわれています。
応急処置としては、心臓の膜に針をさしてたまった血液を抜くのですが、腫瘍に対して治療をおこなわないと、しばらくしてまた同じ状態になります。
心臓の血管肉腫の生存期間(中央値)ですが、
無治療の場合 0.4か月
外科治療+化学療法 5~6ヶ月
化学療法単独 4か月
とされており、無治療の場合の生存期間は非常に短いです。
化学療法(抗がん剤)というと、
「余計につらい思いをさせるのでは…」
と思われるかもしれませんが、
患者さんの7割が抗がん剤の治療により体調が良くなります。
数値として、「化学療法単独での生存期間中央値が4ヵ月」というのは短く感じるかもしれませんが、その4ヵ月は、最期を迎えるまで、ご家族で一緒に過ごす、かけがえのない時間だと私は感じます。
脾臓の場合も、心臓の場合も、化学療法を行う場合はドキソルビシンというお薬を使用します。
3週間に一度点滴で投与するお薬です。
学会中では、ドキシル(リポソーム封入型ドキソルビシン・副作用の低減と、腫瘍組織に長い時間とどまる効果が期待される薬)を用いた治療について紹介がありました。ドキシルの欠点はドキソルビシンにくらべ高価であることと、まだ実績が少ないことです。
化学療法を行うかどうかは、期待される効果や、お薬の副作用、費用などをご説明し、ご家族のご希望、その子の性格などを合わせ、治療方法を一緒に選択します。
積極的な化学療法を実施する場合も、しない場合も、痛みや苦しみをとるお薬を使用しながら、少しでもつらい思いをしないよう、支えてあげたいと思います。