猫のおしっこトラブル(下部尿路疾患)

猫はおしっこ関連のトラブルに非常に遭遇しやすい動物です。
猫のに5頭に1頭は尿路結石症や膀胱炎を経験し、発症率は犬の5倍ほどといわれています。
尿路結石症や膀胱炎というのは下部尿路疾患とまとめられることもあります。
腎臓でおしっこがつくられ、尿管を通って膀胱に貯められて、尿道を通って外へと排泄されます。
この経路のうち腎臓~尿管を上部尿路、膀胱~尿道を下部尿路とよんでいます。

この下部尿路の病気、つまり下部尿路疾患(膀胱炎、尿路結石、感染症etc…)が猫では非常に多く、また若い時からでも発症して慢性化しやすいです。

下部尿路疾患の原因について
血尿や頻尿、排尿困難など似た症状を出すこれらの病気を下部尿路疾患とひとくくりにしていますが、このうち多い病気はなんでしょうか?
いくつかの論文で発症割合が報告されています。


この中に含まれていない疾患だと腫瘍もあったりしますが、多くの場合問題となるのは若い猫では特発性膀胱炎、高齢猫では尿路感染症と特発性膀胱炎です。
特発性膀胱炎とは

(泌尿器徴候:排尿に関する様々な症状のことです。具体的には、頻尿、残尿感、排尿痛、尿失禁、血尿、排尿困難など、尿の回数、尿の出方、尿の成分や色、排尿時の痛みなど、排尿に関する様々な異常や不快感を指します。)
猫の下部尿路疾患のうち半数以上を占めるにもかかわらずはっきりとした原因がわかっていない病気です。
特発性膀胱炎になりやすい猫の特徴というのはいくつか報告されてはいますが、完全には解明されていません。
非常に治りづらく、一度症状が落ち着いても39~65%は1~2年以内に再発すると報告されています。
アメリカでは特発性膀胱炎で安楽死をする例もあるそうで2021年に聞き取り調査をまとめた論文では20%が下部尿路疾患関連で安楽死が選択されたという話もあるそうです。(重度で何度も尿道閉塞を引き起こしてしまうようなタイプの特発性膀胱炎では飼い主様の負担も相当なものになりますがなかなか根本的な治療もなく、やむを得ず…ということだと思われます。)
以下のようなリスク因子が報告されていますが、これに当てはまらない猫でも特発性膀胱炎になることはあります。
(リスク因子:ある病気や状態になる確率を高める要因のことです。)

特発性膀胱炎の症状は内的要因(内因的)と外的要因(外因的)が組み合わさって症状が出てくると考えられています。
(内因:その物事の内部に根ざしている原因 ⇔外因)
特発性膀胱炎の治療
特発性膀胱炎の治療は一つではありません。
いろいろな要因が組み合わさって症状が出ていると考えられるため、それぞれ考えられる原因を改善していくことが大事になってきます。
多面的な環境改善(MEMO)とよばれる室内環境の整備、トイレ環境の整備、水分摂取を増加させる工夫が3本柱として重要でサプリや薬物療法が治りにくい例では使われます。

多面的な環境改善(MEMO)により10か月後には75%の症例で頻尿や血尿といった下部尿路徴候(LUTS)が無くなったという報告もあります。
また、猫にとって快適で健康的な環境については国際的なガイドラインが出ており、これに沿った改善も有効です。(AAFP and ISFM feline environmental needs guidelines )

猫にとって快適で健康的な環境
①安全で安心できる場所
・本人が逃げ込めて体を隠せるような安心できる場所や周囲を見渡せる高い場所を用意すること
②猫にとって重要な必要物資を複数個所に離れて設置すること
・フードや水飲み場、爪とぎ場所、遊び場所、休憩場所を一か所に固めずに複数設置すること
③遊びや捕食行動
・遊び捕食行動の機会を用意すること
④猫との間の良好な社会的関係
・体罰や𠮟責などをせず猫と同居人との間に良好な関係を築くこと
⑤猫の嗅覚に配慮した環境
・匂いが強いものや刺激臭があるものを室内に置かないこと
・顔を擦り付けたエリアを掃除しないこと
・フェリウェイの利用(特発性膀胱炎には効果がないかも…?)

一般的に猫が好むトイレ
・大型のトイレ(猫の体長の1.5倍程度が目安)

・粘土質で凝固性の砂(猫の好みに合わせる)
・厚さ5~7.5㎝で敷く
・カバーなし
・清潔なトイレ(少なくとも一日1回は汚物を取り除き、月1回は全体を取り換えてトイレ自体を洗浄する)
・静かで近づきやすい場所に置く
・ネコの数+1個設置する
水分摂取量を増やす
水分摂取量を増やすことで尿量が増えます。
尿量が増えると尿中の刺激物質が薄くなり刺激が軽減されると考えられます。
・一部をウェットフードにする
・循環式の給水器を使用したり、器の材質・高さ・数を変更する
・少し温めたり、ちゅーるを少量だけ混ぜたりなど猫が好む飲み方を見つける
サプリ・薬物療法
ストレス軽減を狙ってサプリや抗うつ薬が使用されるケースがあります。

α-カソゼピンはジルケーンという名前で犬猫用に出ているため、使いやすいサプリです。(ジルケーン)
社会的ストレス下にある猫の不安行動を減少させるという報告は出ていますが、特発性膀胱炎に直接的に効果を示すかはまだ明らかにされていません。

アミトリプチリン(トリプタノール)は重度の再発性の特発性膀胱炎に使用されることもあり、長期使用で改善することもあります。
過去の論文では6か月以内で15頭中11頭で症状がなくなったと報告されていて、長期的な使用が前提となりそうです。
他の報告では効果はなかったというのも出ているので治りにくいときに試すという立ち位置です。

フード

ネコの特発性膀胱炎に対しては「多目的尿路療法食」とよばれるフードが選択されます。
通常の結石用のフードではなく、結石への配慮に加えてストレス軽減目的にL-トリプトファンなどが添加されています。
現在(2025年8月時点)はロイヤルカナンのユリナリーS/O+CLT、ヒルズのc/dマルチケアコンフォートが該当しています。
これらの製品にすることで症状の発生回数が減少したという報告もあります。また、ドライフードよりも缶詰めのウェットフードを利用した方が再発率は低かったという報告もあるので組み合わせるのが有効かもしれません。

ヒトの間質性膀胱炎・膀胱痛症候群とネコの特発性膀胱炎

ネコの特発性膀胱炎はヒトの間質性膀胱炎(非ハンナ型)や膀胱痛症候群に似た病態だと考えられています。

ヒトでも根本的な治療方法はないようですが、さまざまな治療法が試みられています。
これまでネコの特発性膀胱炎の治療としてとりあげていたものはヒトでいうところの保存的治療と薬物治療(アミトリプチリン)になります。(ネコの特発性膀胱炎は炎症がメインではないため、ステロイドなどの治療は適しません。)
膀胱内注入療法などはネコでも試されていますが、いい結果は出ていません。


まとめ
ネコの特発性膀胱炎はコレといった根本的な治療方法は存在しません。
環境や食事の管理が中心になるため、飼い主様の協力が不可欠です。
治療のゴールは再発を完全に防ぐというよりも再発頻度を減らすことになります。
